新時代の「都合の良さ」を詰め込んだ『逃げ恥』の魅力

あまり自分には合わない気がして敬遠していたけれど、『逃げるは恥だが役に立つ』を読んでみたらすごく面白かった。

何となく敬遠していた理由として、「家事代行で契約結婚」、「高収入で清潔感のある非モテ」とかの上辺の要素を見て、「女性にとって都合が良いファンタジーを示しただけの作品なんじゃないの」と決めつけていたというのがある。実際読んでみて、「都合が良いファンタジー」というのは確かにそうだったけれど、ラブコメとしての「都合の良さ」の詰め込み方が予想を上回る水準で完全に持って行かれた。また、これからの時代の恋愛や共同生活の有り方を考える上でも見るべき点があったと思う。この記事では『逃げ恥』のラブコメとしての良さについて書き、次の記事では、『逃げ恥』から考えるこれからの恋愛・共同生活の有り方について書きたい。

2人だけの秘密の関係

『逃げ恥』は大学院で心理学を学ぶも就活で全滅し、派遣社員として働くが1巻冒頭時点で派遣切りを食らっている求職中の主人公森山みくり(以下みくり)が、30代後半高収入清潔感のある隠れイケメン眼鏡童貞SEの津崎平匡(以下平匡)に、家事代行業として雇われるところから始まり、みくりの環境の変化をきっかけとして、各種控除等のメリットを得るために雇用関係のルールを厳密に取り決めた上で事実婚の届け出を出すというのが序盤の流れだけれど、お互いの親族や平匡の会社の同僚には、世間体を意識して普通の結婚をしているかのように通しているので、その関係が周囲にバレるかどうかにちょっとしたドキドキ感があり、実際に割とすぐに平匡の会社の同僚にバレる。

王道の三角関係

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平匡の会社の同僚風見にみくりたちの結婚の実態がバレて、そこからラブコメ王道の三角関係が始まる(平匡も風見もみくりのことが好き)。この風見というのが一見ドライで冷酷な量産型イケメン感を出しつつ、妙に生真面目で誠実なところがあり、過去の恋愛経験にトラウマあり、という平匡同様要素詰め込みまくりの人物で、この三角関係が展開される中盤がラブコメ的な強度としては一番熱い。画像の「津崎さんから聞いた?僕と津崎さんでみくりさんをシェアしようっていう話」に「えーっ!?これからどうなっちゃうのー!??」と思ったのは私だけではないはずだ(割とどうにもならないのが『逃げ恥』の良さであったりするのだけれど)。

初々しさ溢れるみくりと平匡の関係

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平匡は女性に対しての積極的な行動を完全に封印している交際経験ゼロの純粋な非モテで、みくりがリードする形で2人の関係は進展するのだけれど、みくりも大学生の頃に一度交際経験があるのみで、決して恋愛慣れしている訳ではないところに絶妙な初々しさがある。画像の初めてハグしたときの女の人が良い匂いだったとか、頭が性感帯でぞわわわわわとか「はぁー、そんなときもありましたね」って感じになる。

消極的非モテの平匡をリードするみくりが可愛い

私が提唱している概念に「消極的非モテ」というものがあるのだけれど、平匡は典型的な消極的非モテ(本当は恋愛してみたい気持ちがあるけれど、これまでの失敗経験からどうせ上手くいかないと考えて恋愛的に積極的な行動は一切取らないようにしている)で、リアルだとこのタイプが脱非モテするのには相当に強い運が必須となる(自発的な努力による脱非モテの可能性が無いので)。

みくりは、大学院で心理学を学んだ経験から、平匡の特質を、恋愛で適切な成功体験を積めなかった故の自尊感情の低さが原因と分析し、まずは「契約としての恋人関係」を提案し、月2の定期的なハグから始めて徐々に平匡の脱非モテをうながしてくれる。

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好意や感情の表明も言語的に明確に行ってくれるので、変にうがった迷いが生じることもない。まさに消極的非モテの救世主的存在と言う訳だ。

…身体もふわっとしていて抱き心地が良さそうだ。

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『逃げ恥』は平匡視点で物語が進む場面も多くあることもあって、30代後半高収入清潔感のある隠れイケメン眼鏡童貞SEの平匡がファンタジーレベルで都合の良い存在であることは間違いないけれど、平匡視点のみくりもかなり都合の良い存在であることが読者に伝わるようになっており、その点で「都合の良さの男女平等」とでも言うべき事態が生じている。

ここまで見て来たように、『逃げ恥』はギリギリリアリティを維持できるレベルで都合の良い設定が詰め込んであって、現代のラブコメとしての強度が高い。

次の記事では、『逃げ恥』から考えるこれからの恋愛・共同生活の有り方について書きたい。