『逃げ恥』から考えるこれからの恋愛・共同生活の有り方

前回の記事では、ラブコメとしての『逃げ恥』の良さについて書いた。

『逃げ恥』には、現代の恋愛や共同生活の有り方を考える上でヒントになるポイントがいくつかあったように思うので、今回はその点について書きたい。

コミュニケーションできる関係

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上の画像は序盤の2巻からの引用だけれど、平匡は純粋非モテの段階から一貫して、コミュニケーションできる(話し合える)、みくりと共に問題解決してゆけるパートナーとして描かれている。

共働き世帯の増加に代表される、昭和的な男女の性役割分業から脱した現代の共同生活においては、家庭経営においてあらかじめ決まっている役割というものがないので、常に話し合いをして、お互いの意思を擦り合わせることが必要になる。その点で、曖昧な感情の察し合いに頼らない、言語的に明確なコミュニケーションのニーズはこれまで以上に高まっていると言えるだろう。

スキンシップの安心感・リラックス効果

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『逃げ恥』はハグのシーンが多く、描写が濃いところに特質がある。また、スキンシップのもたらす安心感やリラックス効果について明確に言及されている。逆にセックスの描写はかなり淡泊だ。

夫婦の性的接触というとすぐにセックスレスがどうのという話になりがちだけれど、挿入の有無に主に着目する自意識マウンティング的な性愛観を脱して、日常のQOLを確かに向上させるものとしてのスキンシップの価値に着目すべきではないか、というのは私も常日頃考えていることだ。

性的消極性の評価

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1巻でみくりは、親族に結婚の挨拶をした際に、「みくりちゃんは平匡のいったいどこがよかったの?」と問われ、いくつか列挙した最後に、上の画像のように答えていた。

ここでは、「性的消極性=安心感」と明確に肯定的に捉えられていることが分かる。逆に、暗黙裡に性的積極性は安寧を乱すリスクと捉えられていることが分かるだろう*1。現代では、この感覚は既に女性だけではなく男性も「自分のこと」として分かって来ているのではないか。BL文化の発達等の影響で、女性の男体に対する性的消費のナマの圧力を感じている男性も多いはずだ。

カトリーヌ・ドヌーヴを含め100人の女性が主張したこと: 極東ブログ

レイプは犯罪です。しかし、しつこかったり下手くそだったりしても女の気をひこうとする行為は違反ではありませんし、女をくどくことは男性優位主義の攻勢でもありません。

上掲の、#MeToo運動への批判として「(つたない性的アプローチで)迷惑をかける自由」を擁護したドヌーヴらの文章が最近話題になったけれど、私の正直な感想は「そういうの要らないから」というものだった。相手に迷惑をかけるナンパ野郎になれる「自由」を認められても、そんな自由は行使せずに済む人生にしたいとしか言いようがない。

SNSの発達もあり、人間の繊細な感情の動きが逐一公開されている社会で、私たちは他者を傷つけることに敏感になっている。ドヌーヴのような旧世代の人たちに「迷惑をかける自由」を認められたところで、躊躇いもなくその「自由」を行使できるのは一部のマッチョな世界線の住人に限られるだろう。

なので、これからの恋愛の有り方は、限りなく「迷惑をかける」局面を少なくできるようになるのが望ましい。そのための方法として、

  1. 社会に浸透しつつある女性の性的能動性、男性の性的受動性を認識し、男性性欲の能動性に過剰に依存した恋愛観をアップデートする
  2. 『逃げ恥』の契約結婚のように、交際未満の恋愛的駆け引きをカットして直接共同生活のメリットにアクセスできるシステムを考える

私はこの2つのアプローチがあると考えている。

しかし、特に2つ目については、現状多くの人に採用されるほど有効な試みは実現されていないと感じる。『逃げ恥』の方法をそのまま採用するにしても、家事代行者を雇えるほど高収入の若年男性という条件で既に現実味が薄い。

このような現状から、そもそも恋愛や特定の性的パートナーとの共同生活を人生に必要な選択肢としてみなさないという方向性のアプローチも必要になってくると思われるけれど、その点についてはまた別の機会に語ることとしたい。

*1:『逃げ恥』は本編を通して性的に積極的な描写が控えめな作品と言えるだろう。イケメン風見との三角関係が描かれる中盤では、風見が半ば強引にみくりに迫るテンプレ展開が予想されたけれど、最後まで風見は紳士なキャラだった(百合との関係でも、壁ドンも壁ドンしただけだったし、「あなた僕が絶対自分に欲情しないと思ってるでしょう」と言ったときも百合との距離は1m以上離れていた)。