埼玉県警とイギリス鉄道警察(BTP)の対照的な痴漢対策の事例が報道されている。この2つの事例について私には大きく分けて2つの決定的な差異があるように思われる。
痴漢と対峙する主体が日本では被害者、イギリスでは警察
啓発・警告にとどまらない(バツ印を能動的につける)ってところで男女それぞれの側の「怖さ」を刺激するんだ。
— Cook⚡生還しました。後遺症なし!詳細はピン留め (@CookDrake) 2015年4月17日
Cookさんがツイートしているように、埼玉県警の「チカン抑止シール」の「×」印を痴漢の手に付ける「証拠」生成機能は男女双方の恐怖心を刺激している。まず、被害者が痴漢に対して、シールを押し付けるような能動的な行動に出るのは怖くてできないのではないかということ。そして、男性側から見ると、「×」スタンプによって痴漢冤罪を押し付けられる恐怖があるわけだ。
Twitterを見ると、また例によって「冤罪ガー」と脊髄反射する男性アカとそういう男性の態度を糾弾する女性アカによる対立が起きているのだけれど、この対立は結局のところ同根で、被害者による現行犯逮捕に痴漢の取締まりを全面的に依存している現状が問題なのだ。
@CookDrake 被害者側からとしては、「怖さ」だけではなく、そもそも被害者にリスクや責任を負わせる方法であることへの異議があると思います。
— mel (@leite_e_mel) 2015年4月17日
このことによって、被害者には体格に勝る加害者との一対一の闘いに勝利しなければならないという極端にハードルの高い行動が要求されてしまうし、逮捕の現場に警察が介在しないことによって、誤認逮捕や、示談金を目当てにした犯罪者の付け入る余地が出来てしまうという問題も出て来るのだろう。
対して、BTPのキャンペーンを見ると、
通報する際に、それが犯罪行為なのか、そもそも故意だったのかを証明する必要はありません。BTPがあなたに代わって調査します。
動画で被害者の女性は痴漢に対して一切の働きかけをせずに黙って電車を降り、警察に通報しており、警察側も被害者に痴漢行為を立証する責任は無いとのメッセージを強調している。
ただ、これはロンドンの高度な監視カメラ網があって初めて実現できるものであることには留意したほうがいいだろう。
安心安全情報のセキュリティ産業新聞社 セミナー情報 第8回日本防犯設備協会特別セミナー 「イギリス・ロンドン市における防犯カメラの現状について」
痴漢加害者が可視化されているイギリス、されていない日本
BTPの動画で、痴漢加害者の男性はリアルに描かれている。イケメン風で上質なスーツを着こなす、結婚指輪をはめた既婚者という設定には、痴漢の如何にも犯罪者然としたステレオタイプなイメージを覆す意図があるのだろう。
たぶん勘違いされていますが、性犯罪加害者だからといって粗暴なタイプばかりではない。むしろ見た目は普通ですし、妻も子どももいる人も多いです。もちろん集団強姦を繰り返す人のように、なんの反省もなく次々やっているようなタイプも一部にはいますが、大多数はそうではないですね。
じろじろと見る、さりげなく近づいて、触る、女性が離れてもまとわりつく、股間をこすりつける等の行動も実際の被害の実態を踏まえたものだろう。同じ車両に乗っているのに、本当に気づいていないようにも、気づいていないふりをしているようにも見える他の乗客の様子にもリアリティがある。
対して埼玉県警の「「チカン抑止シール」の使い方」には例のごとく「黒い影の犯罪者」として痴漢が描写されている。日本の痴漢加害者は影であり、実体が無い。
まずはこの「黒い影」を社会的に可視化することから、日本の痴漢対策は始まるのだと思う。