『モテないけど生きてます』現代メンズリブの実践をマクロかつミクロに紹介する良書

メンズリブ実践の仲間で交流のある西井開さんが本を出版したので、どういった魅力のある本なのか紹介したい。

現代メンズリブの実践を包括的に学べる良書

『モテないけど生きてます』はおそらくマーケティングを意識したタイトルで、中身は西井さんの主催する「ぼくらの非モテ研究会非モテ研)」の活動の詳細と、非モテ研の実践のベースにあるメンズリブメンズリブ研究会)や当事者研究べてるの家)、薬物依存者支援(三重ダルク)やDV加害者支援(メンズサポートルーム大阪)の様々な実践や手法を専門的な観点で紹介する手堅い作りになっている。実のところ非モテ研はいわゆる「非モテ」についての団体というよりは標準的なメンズリブ団体としての側面が強いので、現代メンズリブの実践に関心のある読者にとって興味深い本になっていると思う。

本書で特に面白いのは、非モテ研における当事者研究の実態を披露している部分だろう。下のように、西井さん以外の非モテ研メンバーも参加する複数の紹介方法を採用することによって、ただ西井さんの文章だけで説明するのでは伝わって来ない臨場感ある当事者研究の実態に触れられる工夫がなされている。

  • 西井さんによる自身の当事者研究の実践の紹介
  • 西井さん以外の参加者による自身の当事者研究の実践の紹介
  • 西井さんを聞き手とした参加者との当事者研究的対話の紹介
  • 非モテ研と関連して制作した作品(短歌、彫刻)の紹介
  • 西井さんと参加者の間で発生したすれ違い的不和とそこから和解にいたるエピソードを二者の内面を交互に取り上げる形で紹介
  • 非モテ研メンバー9人による対談

メンズリブのコアな持ち味である参加型の活動・コミュニティとしてのアクティブな魅力はこれまでのメンズリブ関連書籍からは今ひとつ伝わって来なかった部分なので、こういった工夫が見られるのは嬉しい。また、個々の実践において、本書の中で紹介されている当事者研究等の専門的手法が実際に有効に働いたエピソードも挟まれていて、各種専門領域に関するマクロな知識がミクロな実践に確かに活かされていることも読者の視点で理解できるようになっている。

本書の末尾に「解説 語りだした男たちに乾杯」として立命館大学教授の村本邦子さんがフェミニズム的観点から非モテ研を評価する文章を載せているのも、フェミニズムと連携しつつ男性ジェンダーの問題を考えるメンズリブの立場を明確にし、全体の印象を引き締める効果がある。

ともすればどうでも良い内輪の馴れ合いを読まされるお寒い同人誌のようになってしまうリスクのあるテーマを、構成の工夫と専門的観点の適度な導入によって、気取り過ぎず、ゆる過ぎずの絶妙なバランスに仕上げて、現代メンズリブ実践の入門書として広くオススメできる内容になっていると感じた。

関連文献

男性の加害的側面の語りを「ダークサイド」として受容するなど、本書における西井さんの方法論はこれまでも繰り返し詳しく語られて来たものだ。

西井さんの方法論については『現代思想男性学特集の「痛みとダークサイドの狭間で ―「非モテ」から始まる男性運動」や、上掲の私とのメンズリブ対談記事からも知ることができる。